光物性研究室

研究概要

電子強誘電体
  強誘電性が電子の運動に由来する電子強誘電体は、従来のイオンの移動などによる強誘電体に比べ、 はるかに高速の反応が期待できるなど、応用上の注目が集まっています。

ダイマーモット絶縁体における新奇な強誘電状態

  ダイマーモット絶縁体である κ-(BEDT-TTF)2Xでは、 低温領域における誘電率が、低周波電場に強く依存し、 リラクサー的な振る舞いを示す、興味深い誘電異常が観測されています。 通常のモット絶縁体では、 この温度領域では電荷自由度が完全に凍結されているために、 このような誘電異常は発生し得ません。 この誘電性の起源として、 ダイマー内電気双極子モーメントの存在が示唆されています。 このダイマー内電気双極子による強誘電性の起源の解明に取り組んでいます。 またこの系では、量子揺らぎのよってスピン秩序が破壊されているスピン液体状態が実現 されていると考えられており、スピンの量子揺らぎと強誘電性の関連も重要な問題となっています。
  我々は、ダイマーモット絶縁体には、ダイマー内電気双極子モーメントと、 ダイマー間ボンドオーダーが強く結合して振動する集団運動(図1に示す)が存在すること、 さらに、この電荷運動を伴う励起はエネルギーが低く、モットギャップ内に存在すること、 を明らかにしました。

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図1 ダイマー内電気双極子モーメントと、ダイマー間ボンドオーダーが強く結合して振動する集団運動

  このモードは、ダイマー間ボンド長の交替と強く結合し、スピン揺らぎが大きい領域では、 現実的な電子格子相互作用強度でソフト化し、強誘電状態が基底状態となることがわかりました。 このモードは、異なるスピン秩序を持つダイマーモット絶縁体の混成により発生するため、 スピン揺らぎによって、安定化されることになります。 また、強誘電状態が基底状態とならない場合でも、 熱揺らぎによって誘起されたダイマー位置の乱れの効果によって、 ダイマー内電気双極子モーメントがある特定の方向に揃い、 強誘電状態が誘起されることを見出しました。